みなさんこんにちは。小次郎講師です。
私は移動平均線大循環分析や大循環MACDをお教えする時、「指数平滑移動平均線(EMA)を使いましょう」とよく言いますが、
今回は、指数平滑移動平均線とは何なのか、なぜそれを使わなければならないのかをじっくりお話ししていきたいと思います。
名前が難しく見えるため敬遠されがちな指数平滑移動平均線ですが、決して難しくないですし、分かりやすく解説をしますからどうぞご安心ください!
指数平滑移動平均線(EMA)とは
指数平滑移動平均線(EMA)は、従来の移動平均線(SMA)の欠点を補正するために生み出された移動平均線で、直近のデータにより比重を置いて算出・描画したものです。
このようにそれぞれの単語の頭文字を取って、単純移動平均線はSMA、指数平滑移動平均線はEMAと呼ばれます。
言葉が難しいため日本ではまだあまり一般的ではありませんが、海外ではSMAよりもEMAの方がよく使われており、MACD・RSI・ATR・パラボリック等のテクニカル指標はEMAの考え方が正式採用されています。
つまり、これらの指標はEMAを理解していなければ正しく使うことはできないのです。
単純移動平均線(SMA)にはダマシが多い?
突然ですがここで問題です。
5日移動平均線(SMA)で、昨日までの平均値は2,000円でした。本日の終値が2,100円だったとき、本日の移動平均は上昇するでしょうか?下降するでしょうか?
昨日までの平均値よりも上がっている訳ですから上昇しそうな気がしますよね。
では答えは?
実は、どちらもあり得るのです。一体どういう事なのでしょうか。
まず単純移動平均線(SMA)の計算式からおさらいしていきましょう。
SMAではシンプルに、それぞれの終値を足したものを、求める期間で割ることで平均値を算出しています。
5日間のデータが、
だったとき、昨日の平均値は、
昨日のSMA=(2,000円+2,000円+2,000円+1,800円+2,200円)÷5
=10,000円÷5=2,000円
となります。そして本日の終値は2,100円でしたから、改めて計算し直してみると、
本日のSMA=(2,100円+2,000円+2,000円+2,000円+1,800円)÷5
=9,900円÷5=1,980円
昨日までの平均値2,000円よりも本日の終値2,100円の方が高いにも関わらず、今日の平均値は下降しています!
本日の移動平均値を求めるとき、本日の終値である2,100円を計算に入れるために、この計算式で一番古いデータである5日前の終値は計算から外されてしまっています。
5日前の終値は2,200円。これは本日の終値よりも100円高いのです。
つまり、平均値が上がるか下がるかは消えていく価格と本日の価格を比較してどちらが高いか安いかで決まります。
その逆に、消えていく価格が本日の終値の価格よりも安かった時は、昨日の平均値よりも本日の終値が安くても、本日の移動平均線は上昇してしまいます。
価格が横ばい状態だった時も消えていく価格によって移動平均線が上昇したり下落したりしてしまいます。
これが、チャート分析をする上でダマシにつながってしまうのです。
次に、100日SMAを例に考えてみましょう。
100日SMAでは、100日前の価格と昨日の価格を同じ重要度とみなして算出しています。
しかし本日の価格に与える影響は、昨日の価格の方が100日前の価格よりも圧倒的に大きいはずですよね。それをどの価格も一律に足して割って平均値を出してしまう所にSMAの問題点があるのです。
SMAのこういった問題点を改善して作られたのがEMAです。
EMAでは、昨日までの平均値よりも本日の価格が高いときには必ず本日の平均値が上昇するようにできています。その逆に本日の価格の方が昨日までの平均値よりも安ければ本日の平均値は必ず下落します。
これは、EMAが直近のデータに比重を置き、求める期間よりも前の平均値も切り捨てることなく計算に加味しているためです。
EMAの計算式
ここで、EMAの計算式を見てみましょう。
EMAでは、それぞれの終値の代わりに昨日のEMAを使用します。そして、本日の価格は比重を重くする為に2倍します!ここがミソ!
5日EMAを求める場合は昨日のEMAに、求める移動平均線の日数から1を引いた4をかけ、最新の価格を2倍。
昨日までの実際の数値の代わりに昨日のEMAを使うことで、切り捨てるデータが無くなります。そして、最新の価格を2倍したことにより分子のデータが1つ増えているので、分母にも1を足します。
こちらの図をご覧ください。
EMAは、「昨日のEMA」と「本日の価格」の2つのデータが分かれば計算することができるので、SMAよりもずっと計算が簡単だというメリットもあります。
100日EMAを求めるとき、昨日のEMAが仮に1,000円、本日の価格が1,100円だとすると、
昨日までの99個のデータの代わりに昨日のEMAを使うので
1,000円×99=99,000円・・・①
本日の価格を2倍するので、
1,100円×2=2200円・・・②
①+②=101,200円・・・③
本日の価格を2倍したことでデータが1つ増えているので、分母である100にも1を足して③を101で割ると、
101,200円÷101=約1002円
これをSMAで求めるとなると、100日間の終値を全て調べて足すという工程が必要になるのでかなり時間がかかりますね。
SMAとEMAの違い
今度はチャートで違いを見てみましょう。
オレンジの線がEMA、黒の線がSMAです。どちらも100日移動平均ですが、形が違います。
2本の線、そして価格の底と天井にご注目ください。
EMAの方がSMAよりも底と天井が早く出現しています。これにより売買サインが一足早く出ることにつながります。
そして、過去の値動きを切り捨てることなく、かつ直近の価格に比重を置いて算出しているため、価格の底・天井と移動平均線の底・天井を比べてみても、SMAよりEMAの方が実際の値動きに忠実であることがわかります。
EMAは市場で求められている平均値に近い!
移動平均線大循環分析では、移動平均線は「過去N日間の買い方と売り方の平均買値と売値を算出し現在の価格と比較していると」解説しました。それは、ある程度利益を出しているトレーダーは利益確定を、損ならばロスカットを検討するだろうなどと、次に市場に出てくる売買の予測を立てるためです。
ただしそれは、過去に出された注文が決済されずに市場に残っている場合のみ有効です。もう決済されたポジションについてはアクションの起こしようがなく価格変動に影響を与えないため、分析しても意味がないですからね。
100日移動平均線を例に考えてみると、昨日エントリーした投資家はまだポジションを持ち続けている可能性が高いですが、100日前にエントリーした投資家で本日までポジションを持ち続けている人はかなり少ないです。
ということは100日前にエントリーした投資家の投資行動よりも直近にエントリーした投資家の起こす投資行動の方が価格変動に影響を与えるということです。
SMAは全てのデータを同じ比重で計算しますが、EMAは直近のデータに比重を置いているので、EMAの方が市場に今残っている注文の平均値に近いということが分かります。
こちらは10日移動平均を例に挙げたそれぞれの数値の比重のイメージです。
チャート分析において、SMAよりもEMAの方が優れた移動平均だということがお分かり頂けたでしょうか。
これからはEMAを使って、様々なテクニカル指標をより正確に理解し使いこなせるようになりましょう!
お疲れ様でした。